Reitou suimin (冷凍睡眠)
冷えたコンクリート もたれて頬を付ける 目線の先 西日に漂う埃を見る何を話すでも無く 身動きとれず 僕は下手な絵空事ばかりをずっと空想する「もう助からないだろう」 君の父さんが言う 丁度その時眼を細めて笑う君を思い出す願えば叶うっていう言葉の空虚さだけが 僕の人生にそれからずっとぶら下がり続ける
心臓は動いたまま眠り続ける 君がもしも死んだら 僕も死ぬ事が出来ただろうかあれから数ヶ月 食うや食わずの生活生きながらに死んでいるって意味では僕も同じだこの世界からの逃避ばかり考えるのが癖に なり始めた頃に保険会社の新商品 テレビ ラジオ ネットに 最近目にするコピー「睡眠中に増える預金」 冷凍睡眠
未だ消えぬ鮮明な美しき日々の色と 幾ら願ってみても決して叶わない事分かっているが時は絶えた既に手遅れ だからいっそ全部忘れて眠らせてくれ延命措置によりただ続く寝息も 後ろ髪引かれるだけの断ち切れない糸堪え難い 悪夢みたい もう忘れたいいや 忘れない 分からない おやすみなさい
それから六十年 僕は眠り続けて 月日は文字通りの悪夢として過ぎて流転する万物は 無愛想で 冷め冷めとした態度だが僕にとっては未だ恩人であらゆる景色が変わり 君の病院も無くなり 始めは苦労した暮らしも今ではなんとかやってる晴れ晴れしい気持ちで 新しい人生をやり直す君の事は忘れたよ ってそんなわけはない
美しい様々には魂が宿り その根底の連結で「美しい」は連なり例えば夕暮れに望郷が蘇る様に 美しい様々が君の面影を呼びその儚さに脅され続ける日々の果てに 行き着くどん詰まりはやはり生き死にの闇人は喪失を許容出来る生き物だ だが逃げ出した僕はその限りではない
未だ消えぬ鮮明な美しき日々の色と 幾ら願ってみても決して叶わない事分かっているが時は絶えた既に手遅れ だからいっそ全部忘れて眠らせてくれ延命措置によりただ続く寝息も 後ろ髪引かれるだけの断ち切れない糸堪え難い 悪夢みたい もう忘れたいいや 忘れない 分からない おやすみなさい
すっかり抜け殻になり 歩く並木道 幻覚か 君にそっくりな女の子を見る休日の陽射し 賑やかに笑うその声に 限りなく確信に近い君の面影を見るやおら女の子が駆け寄って抱きついた 受け止めた そのしわしわの両手に咲いたあの笑顔はまるで懐かしの絵画か 互いに目を細めて笑う顔は まさに僕の希望だそれこそが僕の希望だ 夢にまで見た僕の希望だこれこそが僕の希望だ 失った僕の希望だ
未だ消えぬ鮮明な美しき日々の色と 幾ら願ってみても決して叶わない事分かっているが時は絶えた既に手遅れ だからいっそ全部忘れて眠らせてくれ延命措置によりただ続く寝息も 後ろ髪引かれるだけの断ち切れない糸堪え難い 悪夢みたい もう忘れたいいや 忘れない 分からない どうすればいい?
冷えたコンクリート もたれて頬を付ける 目線の先 西日に漂う埃を見る何を話すでも無く 身動きとれず僕は下手な絵空事ばかりを ずっと空想する下手な絵空事ばかりをずっと空想する